その歯痛、実は虫歯じゃないかもしれません!? 〜他の恐ろしい病の可能性も〜
歯痛は代表的な歯科疾患です。しかし、その原因は虫歯だけではありません。他の恐ろしい病の可能性もあります。今回は、歯科医院における歯痛の治療法と、虫歯以外が原因で起きる歯痛についてお話しします。
1.歯が痛い時の具体的な症状
歯痛は、冷たいものがしみたり、噛むと痛んだり、といった症状から、何もしなくても歯がズキズキするといった症状など様々な症状があります。
①歯がしみる(冷たいor温かいorどちらも)
②歯がズキズキする
③歯茎が腫れて痛い、歯茎から血が出る
④歯茎に違和感がある
⑤噛むと痛い
⑥甘いものが痛い
2.【歯痛の症状別】考えられる疾患と治療法
上記のように、歯痛には様々な症状があります。主な症状について概要と治療法について記してみましょう。
①虫歯
【概要】
虫歯は、歯の表面についた歯垢(プラーク)に、虫歯をつくる菌(ミュータンス菌)が棲みついて酸を出し、その酸が歯の表面の硬いエナメル質や象牙質を溶かして穴を明ける疾患をいいます。虫歯にはC1~C4までの進行過程があります。
-虫歯の進行程度-
・C0:歯の表面の透明度がなくなり、あるいは溝が黒くなり始めた“虫歯になりかけ”の状態
・C1:エナメル質と呼ばれる歯の表層にのみ虫歯がある状態
・C2:象牙質と呼ばれるエナメル質の下の部分まで、虫歯がある状態
・C3:虫歯が歯の神経にまで及んだ状態
・C4:歯の大部分がなくなり、根っこだけしか残っていない状態
【治療法】
虫歯になりかけの場合(C0)は、削らずに、「フッ素」を塗って歯の再石灰化を促進させ、“自然治癒”を待ちます。
虫歯がエナメル質あるいは象牙質にまで進行した場合(C1〜C2)は、インレーと呼ばれる詰め物をします。インレーの材質は、金属からコンポジットレジンと呼ばれるプラスチック、さらにセラミック素材など幅広くあります。
虫歯が神経(歯髄といいます)まで達すると激痛を伴います(C3)。虫歯になった部分を除去したあと、針状の器具で歯髄の中をきれいにし、歯髄の中に薬剤を入れて消毒したあとは被せ物をします。
C4にまで進行すると、歯髄も死んだ状態になってしまい、痛みを感じなくなりますが、もちろん好転したはずがありません。ここまで進行すると、歯が少しでも残っていれば被せ物を使用できる可能性もありますが、残っていなければ抜歯をし、その後、「インプラント」や「ブリッジ」、「入れ歯」などで対応することになります。
・こちらもご覧ください→「どうして虫歯は痛いの?」
被せものには大きく分けて、以下の2種類があります。
・保険診療…「金銀パラジウム合金」が使われます。割れにくく安価ですが、目立つため審美性には欠ける他、アレルギーや歯の黒ずみが起きることがあります。
・自費診療…審美性の高い「セラミック」や「ジルコニア」のような陶材、または、金属アレルギーの少ない「金合金」、「白金加金」等の貴金属を使用します。
当院では、安全性、審美性、耐久性などの要素を総合的に判断し、患者様それぞれに最適な材料をご提案させていただきます。
・こちらもご覧ください→「被せ物の種類と選ぶ基準」
②歯周病
【概要】
歯周病菌が毒素を出すことによって、歯周組織と呼ばれる歯を支えている組織が破壊される疾患です。重度になると歯を支えるものがなくなり、最終的には歯がぐらぐらして抜けてしまいます。
歯周病菌は家族やペットなどから唾液感染します。感染すると、歯茎は腫れ上がり、歯と歯茎の隙間にある歯周ポケットも深くなります。そして歯を支えている骨も溶け出してしまいます。この溶けてしまった骨は、自然には二度と元に戻りません。
自覚症状が出る頃には重症化していることもあるため、歯を失うリスクは高くなります。そのため、いかに早期発見することが重要な鍵となります。歯周ポケット検査やレントゲン撮影で骨の状態を確認したり、細菌検査をしたりすることで早期発見は可能になります。歯科医院で検査を受けてみてください。
【治療法】
歯周病治療のプログラムに沿って治療を実施します。主な内容は以下の通りです。
・プラーク(歯垢・歯の汚れ)の除去
・目で見える歯茎より上の部分に付着している歯石除去
・目では見えない根っこの部分に付着している歯石除去
・外科的処置
・噛み合わせの調整
・動く歯の固定
・歯茎の中への抗生剤投与
⇒治療終了後は定期的な(1~3カ月ごと)メンテナンスへ移行
・こちらもご覧ください→「世界で最も多い病気「歯周病」とは?」
・こちらもご覧ください→「歯周病と全身の健康」
③歯髄炎
【概要】
歯の神経である歯髄に細菌感染が起こり、ズキズキする痛みが出る疾患です。何もしなくても痛みが起こります。
【治療法】
歯の神経を取り除き、神経のあった部屋を消毒や洗浄を繰り返し行い、無菌化されたら、最終的な薬を詰めます。
④知覚過敏
【概要】
虫歯はないが歯がしみる、歯ブラシが当たると痛いなどの症状があり、強い噛み締めや歯ぎしりがあったり、強く歯磨きを行ったり、また、歯周病で歯茎が下がったりすることで、根っこが露出し、エナメル質より軟らかくダメージを受けやすい象牙質に直接影響が加わることによって起こる疾患です。ブラッシングの強さのために知覚過敏になってしまうのは避けたいですね。歯ブラシは握るのではなく、ペンを持つようにすれば、ブラッシングの強度は下がります。
【治療法】
とりあえず、知覚過敏が起きている部分にしみ止めを塗り、痛みがある部分の歯表面をコーティングする対症療法を行います。次に、マウスピースを使う、あるいはプラスチックで覆うなど、原因治療を行います。
⑤咬合性外傷
【概要】
歯並びなどの影響で、噛み合わせが強く当たるところに痛みがでる状態。
【治療法】
強く当たる部分を確認し、噛み合わせの調整、またはマウスピース矯正を行います。
⑥親知らず
【概要】
真ん中から8番目の一番奥の歯で、萌(は)えてくる場合もあれば歯茎に埋まったままの場合もあります。斜めに萌えたり、水平に埋まっていたりすると、様々な痛みを引き起こします。親知らずは磨きにくいため、虫歯や歯周病になることがあります。また、半分だけ出ていたりすると、歯茎に食物やばい菌が入り、腫れることもあります。
【治療法】
歯の周囲の洗浄、抜歯。
親知らずを抜くとすれば、回復の早さからして若い時の方がベターです。また、糖尿病・循環器・骨粗しょう症が高度に進行している場合や、親知らずが下顎神経に近くて抜歯による後遺症リスクが高い場合もあるので、歯科医師に相談してください。
・こちらもご覧ください→「痛くないのに親知らずは抜かないとだめ?」
3.対応として何ができるの
3-1自宅でできる応急処置
①お口の中を清潔に保つ
②柔らかい食物を食べる
③歯科医院に連絡をとる
3-2してはいけない4つのこと
①痛い歯をいじる
②激しい運動をする
③アルコールを飲む
④熱いお風呂に入る
上記のことを行うと、血行が促進され、さらなる痛みを誘発する要因となります。
4.全身疾患との関連性 〜虫歯じゃないのに歯の痛みを伴う病気〜
虫歯ではなくても、次のような疾患の一症状として歯が痛むことがあります。
①筋・筋膜性歯痛
歯痛の原因の疾患として最も多く認められます。特に頭部筋・筋膜痛症患者に原因不明の歯痛が多くみられます。上下の歯を持続的に接触させる癖があることによる筋の緊張で起きている場合もあります。
②神経障害性歯痛
三叉神経痛や顔面部の帯状疱疹、歯科治療による神経損傷に起因したもの
③神経血管性歯痛
片頭痛、群発性頭痛など
④上顎洞性歯痛
上顎洞(上あごの上にある骨の空洞)の炎症や、手術後の上顎内圧の上昇・関連痛により生じます。
⑤心臓性歯痛
狭心症などの虚血性心疾患や動脈解離、心膜炎、肺癌などの胸部疾患により生じます。
⑥精神疾患または心理社会的要因による歯痛
身体表現性障害、統合失調症、大うつ病性障害など
⑦突発性歯痛
原因には諸説がありますが、中枢神経系の痛みを処理する過程に何らかの異常があるのではないか、という説が有力です。
⑧その他のさまざまな疾患により生じる歯痛
口腔領域への転移癌や白血病、糖尿病による場合もあります。
このように歯の痛みの原因には様々なものが考えられます。痛みを放置せず、早い段階で一度歯科医院を受診されることをお勧めします。放置して痛くなったとしても原因は取り除けないことが多く、沈黙しながら悪化していくこともあります。手遅れになる前に受診されることをお勧めします。その他、お口のことで気になる点がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。