酸蝕症(さんしょくしょう)は、種々の要因によって歯が侵蝕されることを言います。歯が溶ける疾患としては虫歯がポピュラーですが、今回は、酸蝕症について概要と対策などについてお話します。
1.酸蝕症とは?
酸蝕症とは、酸性の飲食物や胃液等によって歯が溶かされる疾患です。歯は酸に弱く、酸にさらされ続けると歯の再石灰化(説明下記)が行われずに、歯の表面が溶け出してしまいます。このように、酸蝕症は酸の作用による症状ですが、細菌が関与していないという点で「う蝕」(虫歯)と異なっています。 症状が進行すると、冷たいものが歯に沁みる知覚過敏や虫歯のような痛みを引き起こします。
虫歯の場合、歯垢の中にいる虫歯菌が炭水化物や糖分を栄養源にし、酸を作り出して歯を溶かします。一方、酸蝕症は酸性の飲食物や体中からの酸によって歯を溶かします。酸によってエナメル質が溶かされると、歯の中の組織の象牙質が出てきます。象牙質はエナメル質よりも軟らかいので、出てきてしまったまま象牙質を放っておくと、お口の中の噛む力も加わり、歯がどんどんすり減ってきます。歯がすり減ってしまうと、冷たいものが沁みるようになります。
酸蝕症に特徴的なのは、歯全体が徐々に溶かされていくことで歯が薄くなり、先端部分が透けてくる点です。薄くなった部分が欠け、先端がギザギザになることもあります。他にも、エナメル質が溶けて歯が白濁、あるいは黄ばんで見えるといった症状もありますが、素人が外見だけで虫歯なのか酸蝕症なのかを正確に判断するのは難しいので、歯に違和感があれば、すぐに歯科で診てもらってください。
▲酸蝕症になった歯のイメージ
歯の脱灰のメカニズム
pH7が中性で、値が中性よりも小さくなれば酸性、中性よりも大きくなればアルカリ性になります。口内のpHが5.5~5.7以下になると、歯の表面のエナメル質が溶かされる「脱灰」(だっかい)という現象が起きます。通常は唾液の働きで口内は中和され、溶かされた歯も補修される「再石灰化」が進みますが、中和される前に繰り返し飲食をしたり、唾液の分泌が少なくなる就寝時前に飲食をしてすぐ寝たりすると、脱灰が進んで穴が開きます。
2.酸蝕症の原因
酸蝕症は、かつてはメッキ工場やガラス工場で酸性のガスを吸うことで歯が溶ける職業病、いわば特殊な疾患とされていました。しかし、酸性の飲食物を過度に摂取する習慣を持つ人や胃酸の逆流をともなう疾患の増加により、酸蝕症患者も増加しています。最近の専門家による調査では、程度の差こそあれ、成人の約1/4が酸蝕症であるという統計もあります。
3.酸蝕症の治療
酸蝕症は生活習慣病の一種とも考えられ、酸蝕症に至った原因を突き止め、その原因を解決しなければ、根本的な治療・回復には至りません。
ちなみに、歯科的治療としては、酸蝕症による欠損部が部分的な場合は、通常、コンポジットレジン(樹脂製の歯の修復用素材)で修復します。欠損部が広範囲におよぶ場合は、ラミネートベニア法(歯の表面を0.5mmほど削り、そこにネイルチップのような薄い人工歯を貼り付ける方法)やクラウン(被せ物)で対応することになります。
主な食品のpH
市販の飲料の7割以上がpH値5.5以下であるという調査データがあります。飲料では、炭酸飲料はpH2.2程度で、塩酸も含んでいるという胃酸の数値(pH1~2)に近い強酸です。ワイン(pH3)、栄養ドリンク(pH2.5)、スポーツドリンク(pH3.5)なども酸は強めです。逆に、お茶はpH6強、水はpH7と、酸蝕症のリスクが小さいと言えます。
食品では、甘いフルーツ類がpH3〜4と酸蝕症リスクが高く、野菜でpH4〜6程度、肉や魚、米やパンはpH5.5程度となっています。
4.酸蝕症の予防
酸蝕症には、次のような予防策が考えられます。
4−1.酸性の強い食品の過剰な摂取を控える
酸蝕症の原因となる酸性の飲食物を摂取した後は、水で口の中をゆすいでください。ゆすぐことによってお口の中が中性に戻り、酸によって歯が溶かされることを予防します。また、原因となる飲料・食品などを長時間口の中に入れることも避けましょう。
4−2.だらだら飲み食いを控える
糖質によって溶かされた歯が再石灰化するのに40分程度かかると言われています。だらだらと間食していると再石灰化を行うことができないので、間食するとしても時間を区切ってしてください。特に子供の場合、歯は大人の歯に比べて軟らかく酸にも弱いため、ジュースや炭酸飲料、柑橘系の果物を摂り過ぎないように気を付けてあげてください。下の模式図のように、だらだら飲食していると、脱灰の時間が多くなり、それだけ酸蝕症のリスクは高まります。
4−3.よく噛んで食べる
よく噛んで食べたり(1口30回)デンタルガムを噛んだりすることで、唾液の分泌が増え歯の再石灰化が促進します。
4−4.食後すぐの歯磨きは慎重に
食後はエナメル質が柔らかくなっているので、すぐ歯磨きをすると歯が削れてしまいがちです。「日本歯科保存学会」では、酸性の強い飲食物を摂った場合には、酸によって歯の表面が溶けていることに気を付けて歯みがきすることを推奨しています。
5.まとめ
口内環境には気をつけているし、逆流性食道炎もない、炭酸飲料は控えて健康的な生活を送っている、という人も油断はできません。
黒酢やワイン、スポーツドリンクの過度の摂取など、健康を意識した習慣が原因で酸蝕症になってしまった例が多く確認されています。グレープフルーツを3か月以上1日2個食べ続けたことにより酸蝕症になったという例もあります。これは、こうすることで老人斑が消えるという素人判断が招いた事態です。何事もやりすぎはいけませんね。